外国人を安く使わないことが、日本人の雇用を守る。

世相の道

はじめに ― 本稿における用語の定義

外国人労働者制度を語る時、「移民」という言葉が数多く使われている。

しかし、この言葉には一時的な就労、長期滞在、永住、帰化、家族帯同など、異なる制度や立場が混在している。

そのため、「移民」という一つの言葉だけでは議論の対象が曖昧になり、人によって全く異なる意味で受け取られてしまう。

制度設計において最も重要なのは、まず対象を正確に定義することである。

本稿で論じる対象は、日本で一定期間働くことを目的として受け入れる外国人労働者制度である。

労働力として一定期間受け入れる制度と、永住や帰化を前提とする制度は、本来、目的も運用も異なる。

それらを一つの言葉で議論すれば、制度そのものが曖昧になり、建設的な議論は成り立たない。

だから本稿では、「移民」という曖昧な表現ではなく、「外国人労働者」という制度上の対象を明確に定義し、その制度設計について論じる。

制度は言葉から始まる。

言葉が曖昧であれば、制度もまた曖昧になる。

だからこそ、本稿は「言葉の定義」から始めたい。


人手不足の前に考えるべきこと

「人手不足だから外国人労働者を受け入れる。」

この考え方は、一見すると合理的に思える。

しかし、本当に日本は人が足りないのだろうか。

私はまず、この問いから考える必要があると思う。

日本には、

・就職を希望しながら働けない人

・非正規雇用で将来に不安を抱える人

・就職氷河期世代

・育児や介護と仕事の両立が難しい人

・制度上の理由から能力を十分に発揮できない人

が数多く存在する。

つまり、人がいないのではなく、

人が働きやすい制度になっていない。

この視点を抜きにして外国人労働者制度だけを議論しても、本質的な解決にはならない。

まず取り組むべきは、日本人が安心して働ける制度を取り戻すことである。

その上で、なお不足する分野について、外国人労働者制度をどう位置付けるかを考えるべきだ。


外国人労働者制度は補完策である

私は、外国人労働者制度そのものを否定する立場ではない。

しかし、その制度は日本の労働力不足を恒久的に外国人で補う仕組みであってはならない。

本来あるべき順序は明確である。

まず、

国内人材を育成する。

働きたい人が働ける制度へ改革する。

税・社会保障・扶養制度を見直す。

企業が賃上げと人材育成を進める。

省力化や生産性向上へ投資する。

これらを積み重ねてもなお不足する分野に限り、一定期間の補完的人材として外国人労働者を受け入れる。

外国人労働者制度とは、日本人を置き換える制度ではない。

日本人の雇用を支えながら、社会を維持するための補完制度である。

だから制度には、

「受け入れる条件」だけではなく、「縮小する条件」「終了する条件」まで最初から組み込まなければならない。

制度とは、始め方だけではなく、終わらせ方まで設計されて初めて完成する。


外国人労働者を安価な労働力にしてはならない

私は、この制度で最も改善しなければならない点はここにあると考えている。

外国人労働者を、

「安価で便利な労働力」

として扱える余地が残っていることである。

この構造は外国人にとっても不幸である。

低賃金で働かされ、

転職の自由が制限され、

生活基盤まで企業へ依存する。

その結果、

日本人の賃金も押し下げられ、

企業は人材育成よりも安価な労働力へ依存する。

つまり、

外国人を搾取する制度は、

巡り巡って日本人を搾取する制度になる。

だから私は、

外国人を安く雇えない制度へ変えるべきだと考える。

それは外国人を守るためだけではない。

日本人の雇用と賃金を守るためでもある。


外国人の人権を守ることが、日本人の雇用を守る

この論考は、外国人の権利を弱めようとするものではない。

むしろ、その逆である。

外国人労働者にも、

日本人と同等以上の適正賃金、

社会保険、

安全な労働環境、

転職の自由、

相談体制、

適切な住環境、

技能向上の機会を保障するべきだと考える。

受入れ企業には、

入国後の生活支援、

日本語教育、

職場教育、

安全教育、

地域との調和、

契約終了後の転職支援又は帰国支援まで、

明確な責任を負ってもらう。

ここまで責任を制度化すれば、

外国人は決して「安価な労働力」ではなくなる。

すると企業は自然に考える。

「地域の日本人を育てた方が、長期的には合理的ではないか。」

制度とは、

企業の善意に期待するものではない。

企業が自然と社会全体にとって望ましい判断を選ぶよう設計するものである。

だから私は、

外国人を安く使えない制度こそが、日本人の雇用を守る制度であると考えている。

入国前に選ぶことも人権である

制度は、受け入れる人数だけを決めても完成しない。

本当に重要なのは、

「誰を、どのような基準で受け入れるか。」

である。

私は、入国前の教育と審査こそ、人権を守るために最も重要な制度だと考えている。

十分な教育もなく異なる文化へ送り出されれば、最も困るのは外国人本人である。

生活習慣の違い。

法律の違い。

働き方の違い。

災害への対応。

地域との関わり。

これらを知らないまま来日すれば、本人も企業も地域社会も不幸になる。

だからこそ、入口を厳格にする。

それは排除ではない。

真面目に働く人を守るための制度設計である。


出国前教育は送り出し国の責任

外国人労働者制度を国家間の人材交流として位置付けるなら、送り出し国にも明確な責任を負ってもらう必要がある。

送り出し国の公的機関は、出国前に次の教育と確認を実施する。

・本人確認及び身元確認

・無犯罪証明

・健康診断

・技能検定

・基礎日本語教育

・日本の法令と労働法

・日本の生活文化・生活習慣

・交通ルール

・防災・災害時対応

・薬物に関する教育

・契約内容の説明

・帰国制度の説明

これらを修了した者のみ、日本への就労資格を与える。

送り出す以上、送り出し国にも責任がある。

国家間交流とは、

送り出す責任と受け入れる責任を分かち合う制度である。


入国後教育は受入れ企業の責任

出国前教育だけでは十分ではない。

実際に働く現場には、それぞれ異なるルールがある。

だから企業は、

入国後に責任を持って教育を行う。

・職場教育

・安全教育

・現場で使う日本語

・生活支援

・地域との調和

・相談体制

・技能向上支援

・契約終了後の転職又は帰国支援

企業が利益を得る以上、

人材を育てる責任も負う。

外国人労働者制度は、

単なる雇用契約ではない。

人を預かり、人を育てる制度でもある。


国家間人材交流への転換

私は、外国人労働者制度を民間企業だけに任せるべきではないと考える。

一人の人材が国境を越えて働くということは、

企業同士の契約ではなく、

国家と国家の信頼によって支えられる制度だからである。

送り出し国は、

送り出す責任を負う。

日本は、

受け入れる責任を負う。

企業は、

育てる責任を負う。

そして本人は、

契約を守り、法令を守る責任を負う。

それぞれが責任を果たして初めて、

制度は健全に機能する。

外国人労働者制度とは、

人を輸入する制度ではない。

国家間で人材を育てる制度なのである。

海外制度から学ぶべきこと

外国人労働者制度を国家間の人材交流へ転換する考え方は、まったく前例のないものではない。

韓国では、政府が送出国と協定を結び、公的機関が外国人労働者の選抜・導入を担う雇用許可制を運用している。韓国語能力試験や健康診断、帰国費用を想定した保険制度も設けられている。

シンガポールでは、産業ごとに外国人労働者の受入れ比率を定め、企業に外国人雇用税、医療保険、保証証券、帰国手配などの責任を負わせている。

カナダの季節農業労働者制度では、送り出し国政府が労働者を選抜し、必要書類を確認し、現地に政府代表を置く。雇用期間の終了後は帰国することを前提とした、国家間の循環型制度である。

これらの制度をそのまま日本へ移す必要はない。

韓国の国家間選抜、シンガポールの産業別管理と企業責任、カナダの帰国を前提とした二国間交流。

それぞれの長所を統合し、日本の雇用、地域社会、産業構造に適した制度へ再設計すべきである。


良い制度とは責任を増やす制度ではない

制度を厳しくすると聞くと、

多くの人は

「企業の負担が増える。」

と思う。

しかし私は逆だと考える。

本来国家が担うべきことまで企業へ押し付けるから、

企業の負担が増えるのである。

送り出し国が行うべきこと。

日本政府が管理すべきこと。

企業が担うべきこと。

本人が守るべきこと。

これを整理すれば、

企業は本来の仕事である

「人を育てること」

に集中できる。

良い制度とは、

責任を増やす制度ではない。

責任を負うべき者が、適切に責任を負う制度である。


帰国支援まで設計する

制度は入口だけでは完成しない。

出口まで設計されて初めて制度になる。

外国人労働者制度も同じである。

契約が終了した時、

安心して母国へ帰ることができる制度が必要である。

私は、

帰国支援基金を創設し、

受入れ時点で帰国費用を担保する仕組みが必要だと考える。

契約満了。

企業倒産。

緊急帰国。

いかなる場合でも、

帰国費用がないために不法残留へ追い込まれるような制度であってはならない。

さらに送り出し国には、

契約終了後、自国民を確実に受け入れる責任を負ってもらう。

帰国後は、

日本で習得した技能を評価し、

母国企業や日系企業への就職支援まで行う。

送り出したら終わり。

帰国したら終わり。

そのような制度では、

国家間交流とは言えない。


国家間交流とは循環である

私は、

国家間交流とは

「人を受け入れること」

ではないと思っている。

人材が日本で技能を学び、

経験を積み、

母国へ帰る。

そして、

その経験を母国の発展に生かし、

日本との新たな架け橋になる。

そこでは、

日本は技術を伝え、

相手国は人材を育てる。

互いが発展し、

互いが信頼を深める。

これが本来あるべき国家間交流である。

人を輸入するのではない。

人を育てる。

労働力を確保するのではない。

信頼を育てる。

私は、

この理念こそ、

外国人労働者制度が目指すべき未来だと考えている。

日本の法秩序を守るための退去基準

国家間人材交流制度は、

外国人労働者を尊重する制度である。

しかし、

尊重することと、

重大な法令違反を容認することは同じではない。

日本で働く以上、

日本の法律と憲法秩序を守ることは、

日本人・外国人を問わず最低条件である。

そのため、

次のような重大な法令違反については、

司法手続を経て有罪が確定した場合を原則として、

在留資格の取消し及び退去手続の対象とする。

・麻薬・覚醒剤等の製造、密輸、販売

・重大な性犯罪

・殺人

・強盗

・重大な窃盗及び詐欺

・重大な暴行・傷害

・人身取引

・組織犯罪への関与

・国家機密の漏えい

・企業の営業秘密及び重要技術情報の漏えい

・重要インフラへの妨害行為

・重大なサイバー犯罪

・身分証明書及び在留資格等の偽造・不正取得

・テロ活動及び暴力的過激活動への参加

・外国政府又は外国組織の指示による違法な諜報活動及び政治工作

・日本の憲法秩序を暴力又は違法な手段によって破壊しようとする活動

重要なのは、

思想や信条そのものではなく、

日本の法秩序を侵害する違法行為

を対象とすることである。

真面目に働く外国人を守るためにも、

重大な法令違反を行う者とは、

明確に区別しなければならない。


制度をビジネス化させない

私は、

外国人労働者制度で最も警戒すべきものは、

制度そのものを利用して利益を得ようとする第三者の存在だと考える。

制度に必ず現れるのは、

人ではない。

制度の隙を利益へ変える者である。

外国人労働者制度は、

人材育成と国家間交流を目的とする制度である。

したがって、

この制度を利用して第三者が不当な利益を得ることを認めてはならない。

次のような行為は禁止する。

・高額な仲介手数料の徴収

・在留資格を利用した利益要求

・契約外の保証金及び管理費の徴収

・外国人労働者への脅迫・恐喝

・転職を利用した不当な利益取得

・制度を利用した組織的利益供与

・外国人労働者を囲い込み搾取する行為

・不法就労の斡旋

・偽装雇用

・制度を利用した第三者による不当な利益取得

制度は、

人を育てるためにある。

人を利用して利益を得るための制度であってはならない。


罰則まで設計する

制度は、

善意だけでは守れない。

だからこそ、

責任だけではなく、

罰則まで設計する必要がある。

私は次のような処分を制度へ組み込むべきだと考える。

送り出し国

・身元確認を怠った場合

・不正な送り出し機関を放置した場合

・帰国受入れ義務を履行しない場合

→受入れ枠の縮小又は停止


日本の受入れ企業

・労働法違反

・人権侵害

・違法就労

・虚偽申請

・教育義務違反

→受入れ資格取消し

→行政処分

→営業停止

→罰金


仲介機関・第三者

・制度を利用した利益取得

・違法紹介

・搾取

・脅迫

→登録取消し

→営業禁止

→刑事罰


外国人労働者本人

重大犯罪

重大な法令違反

在留資格の不正利用

→退去手続

→再入国制限


罰則は、

制度を厳しくするためではない。

真面目に制度を守る人を守るために存在する。


産業ごとに受入れを管理する

外国人労働者制度は、

市場原理だけで運用するべきではない。

国家は、

どの産業に、

何人、

どの期間、

どの技能水準で受け入れるかを管理する必要がある。

その際、

企業は、

外国人受入れ前に、

・賃上げを行ったか

・日本人を募集したか

・未経験者を育成したか

・正社員化を進めたか

・省力化投資を行ったか

これらを示す。

それでも人材不足が解消できない場合に限り、

外国人労働者を受け入れる。

つまり、

外国人受入れは、

企業努力を終えた後の

最後の補完策

である。


外国人を使う制度から、人を育てる制度へ

私は、

外国人を排除したいのではない。

日本人も、

外国人も、

同じ一人の働く人として尊重される社会を望んでいる。

だからこそ、

外国人を安く使えない制度へ変える。

企業は、

人を育てる。

国家は、

制度を整える。

送り出し国は、

責任を持って送り出す。

本人は、

技能を身につける。

そうすれば、

企業は、

長く働く日本人も、

真面目に働く外国人も、

共に大切に育てる方向へ進む。

制度とは、

誰かを優遇する仕組みではない。

努力する人が正当に報われる環境を整える仕組みである。

外国人を安く使う制度から、共に未来を育てる制度へ

ここまで私は、

外国人労働者制度の在り方について述べてきた。

しかし、本当に伝えたいことは、

外国人労働者制度そのものではない。

私が考えているのは、

日本という国が、どのような社会を築いていくのか。

ということである。

制度とは、

誰かを優遇するために存在するものではない。

誰かを排除するために存在するものでもない。

人が安心して働き、

企業が安心して人を育て、

国家が安心して未来を託せる社会をつくるために存在する。

だから私は、

外国人を安価な労働力として受け入れる制度には反対である。

それは外国人を搾取し、

日本人の雇用を不安定にし、

企業から人を育てる力を奪ってしまうからである。


国家間交流とは信頼を育てること

私は、

外国人労働者制度を

国家間人材交流制度として再設計したいと考えている。

国家が責任を持って送り出し、

国家が責任を持って受け入れる。

企業は人を育て、

働く人は技能を身につけ、

契約を終えた後は母国へ帰り、

その経験を自国の発展に生かす。

そして、

日本との新たな架け橋となる。

この循環が生まれた時、

外国人労働者制度は、

単なる労働政策ではなく、

国家と国家が互いに成長する

人材交流制度

へと発展する。


守るべきは国籍ではない

私は、

日本人だから守る。

外国人だから排除する。

そのような考え方には立たない。

守るべきものは、

国籍ではない。

公平な制度である。

日本人にも責任がある。

外国人にも責任がある。

企業にも責任がある。

国家にも責任がある。

送り出し国にも責任がある。

責任を果たす者が尊重される。

それが公平な社会である。


人を輸入するのではない

私は、

人を輸入したいのではない。

人を育てたい。

労働力を確保したいのではない。

信頼を育てたい。

外国人労働者制度とは、

人手不足を埋める制度ではない。

人材を育て、

日本人の雇用を守り、

企業を強くし、

国家と国家の信頼を深める制度である。

そこに、

日本という国の未来がある。


結び

私は、

制度とは、

人を縛るために作るものではないと考えている。

制度とは、

人が安心して挑戦できる環境を整え、

責任を果たす者が正当に評価され、

努力が報われる社会を築くためにある。

だから私は、

外国人を安く使えない制度を提案した。

外国人を守るためでもある。

日本人を守るためでもある。

企業を守るためでもある。

そして、

未来の日本を守るためでもある。

制度とは、

理想だけでは動かない。

現実だけでも続かない。

制度と思想は、理想で設計し、現実で運用する。

私は、

そのような制度こそ、

次の時代の日本に必要だと考えている。

外国人を安く使わないことが、

日本人の雇用を守る。

そして、

日本人の雇用を守ることが、

外国人の尊厳を守る。

その先にあるのは、

排除ではない。

対立でもない。

責任を分かち合い、互いに人を育て、信頼で結ばれる国家間交流である。

私は、

その未来を目指したい。

河瀬昌良

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